2018年05月01日

風鈴

猫の紅一点と申します。すっかり暖かくなり、冬毛を梳いてもらうのが日課のこの頃、皆さまお変わりございませんか。
春の陽を透かして揺れる初々しい若葉も、葉を広げ、色を深め、夏を迎える支度を整えているようです。程よく樹々が梢を伸ばして木陰を作ってくれるものですから、窓辺の椅子に香箱座りをして外を眺めるのが最近の楽しみでございます。

先日、気の早い家人が、軒先に風鈴を吊るしました。南部鉄の小さなつり鐘。聞くところによると、三十数年の年季物。室内に居ても、リーンと高く澄んだ音色を耳に届け、風のおとないを知らせます。しばしまどろみながら耳を傾けておりますと、はたと音が止み、気になって軒先を見上げますと、虚ろにつり鐘が揺れています。目を凝らして見ると、舌(ぜつ)がありません。年季物だけに、糸の性が抜けて切れてしまったようでございです。

風鈴は、つり鐘の中に舌。舌の下に短冊。短冊が風に揺らぐと舌に伝わり、つり鐘と共に響き合ってあの涼やかな音色を生み出すのでございます。

梢は青空の中をゆったりとたゆとうているのに、軒先の風鈴は寂し気に首を垂れています。家人も気付き、風鈴を再び手に取ると、早速、糸を新しいものに取り替える作業を始めました。その背を眺めつつ考えました。
日々の喜怒哀楽を響き合うように共に味わう相手がいることは当たり前ではないのですね。同じ風でも一瞬で色彩が無くなる。舌を失った風鈴の心のうちを慮ると憐れでなりません。

私は一目散に駆け出しました。作業を終えた家人に頭を撫でてもらって、響き合う喜びを分かち合いたい一心で。もちろん、風鈴の嬉し気な響きを聴きながら。
では、またお便り申し上げますね。ごきげんよう。


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posted by 福岡聖恵病院 at 10:08 | めぐみだより