2018年02月15日

紅一点

上弦の月清かな冬空の下、繰り広げられた我が家の愛猫「紅一点」を巡るお話です。
「私、この家では唯一の女の子「紅一点」でございます。昼間でも身が凍るような寒さ厳しき日の出来事をお話申し上げます。


昼下がり、つらつら窓辺で外を眺めておりますと、玄関の呼び鈴が鳴りましたので、覗いてみますと、家人が何やら立ち話をしております。私、先程窓から見た程よい高さの庭石にどうしても腰かけてみたい衝動を抑えきれず、これ幸いとそっと抜け出しました。ところが、存外の寒さに急速に気持ちが萎えて、数歩行ったところで踵を返したところ、なんと家人の姿はなく、無情にも扉は固く閉ざされているではありませんか。慌てふためきました。あの手この手で、私が外に居ることを家人に知らせようと試みましたが、日頃から注意散漫の家人。何をか況んやです。諦めました。


寄る辺ない不安を心に小さく折りたたんで仕舞い、野良さんに気付かれぬよう、寒風をしのげるよう、そして、犬にも優る聴力で家から漏れ聞こえる家人の声を聞いていたい、その一心で縁側の下にピタリと身を寄せて丸くなりました。走馬灯のように頭を巡るのは、この家に来てからの悲喜こもごもの日々ばかり。どれ程の時が過ぎた頃でしょう。私の名を呼ぶ家人達の声が耳に届いたのは。涙が零れました。しかし、寒さに耐え続けたせいか、身体がピクリとも動かず、返事すら出来ません。呼ぶ声は、近付いては遠去かりを幾度繰り返したことでしょう。後で分かりましたが、この日私が家を出てから十時間。猫時間では、人間のほぼ二日間でございますよ。灯りが私を照らし出し、家人に抱きかかえてもらった時の安堵感。今でも家人の肩越しに見えた夜半のお月さまの優しさと共に胸を温めてくれます。

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現在は、すずやかな音色の鈴を新調してもらい、背伸び一つで家人に居場所を知らせることができます。もう二度と、と心に誓っては居るものの女心と何とやら。煩悩とは厄介なものです。
話を聞いて下さり有り難うございました。またお便り申し上げます。ごきげんよう。」


 

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posted by 福岡聖恵病院 at 08:00 | めぐみだより